研究背景
近年、航空宇宙分野や炭素系複合材料(以下CFRP)の実用化が期待されています。特に量産が期待される熱可塑CFRP製造技術では、繊維長、樹脂流動スピード、温度分布の影響でプレス成型したCFRPの繊維配向の偏りやボイド発生が問題となっています。しかし現在の繊維配向性評価方法は強度試験やX線CT観察などが用いられており、資料を切り出す必要性や長時間を要するなど、簡便で実用的な方法がありませんでした。
今回開発した手法「繊維配向同定法」は、材料の片面をレーザー等で周期的に加熱し、その熱が材料内に拡散する速さの違いをサーモグラフィーで検出することで、非接触、非破壊で繊維の配向状態をわずか数分で調べることが可能になります。
「繊維配向同定法」の原理
「繊維配向同定法」は、面内熱拡散率角度分布の測定法を応用する手法
レーザーで材料を加熱すると材料内に熱が拡散されます。その熱が伝わる速度(熱拡散率)は材料内の繊維と樹脂の含有量と繊維の向きにより異なるため、全方位の熱拡散率の分布を測定することで繊維の配向分布を明らかにすることができます。
- 材料の片面をレーザーで周期的に加熱すると、周期的な温度信号が材料内を拡散します。
- 温度分布、温度信号の伝播の速さと信号強度の減衰をロックイン式サーモグラフィーを用いて検出します。得られた位相遅れおよび強度減衰から熱拡散率の角度分布を測定します。
- 熱拡散率と繊維配向の相関より、繊維配向方向を決定します。
成果の意義および活躍分野
「繊維配向同定法」は、面内360°方向の繊維配向分布が非破壊で迅速に得られるため、CFRPの製造プロセスや品質管理において、有効な手段となります。特に自動車分野などで実用化が期待される不連続繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)部品の製造ライン検査に応用が期待できます。
また、CFRPだけでなく電子機器分野における放熱材の熱抵抗・熱伝導率評価や曲面材料の熱伝導率測定やナノ粒子分散評価への応用も可能となります。
<共同研究先>
名古屋大学大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 熱制御工学研究グループ 長野方星 教授
http://www.eess.mech.nagoya-u.ac.jp/index.html